セレ子(S) 「あー、イラつく!」

セレ子が一年で最も嫌う日が来た。

S 「いつから日本国民は露出狂になったのよ!」

セレ子の言う日本国民とは、平凡で退屈な毎日の反動で、ハロウィンになると、ここぞとばかり露出に走る、昨今のジャパニーズガールのことである。舶来の祭りごとに便乗して年に一度、街に大量発生するハレンチ女子達を、大量発生した蚊のごとく、セレ子は毒舌で叩きつぶす。自分のテリトリーを占領され、イラつくセレ子。

夕美(Y) 「民主主義。表現の自由ってことで…」

S 「姉タマ、今年のコスチュームは? 」

Y 「Tシャツにトレパンよ。今晩は家でお仕事」

S 「あら、つまんない。去年はイケイケだったじゃない」

そうそう。去年のハロウィンナイトは、しっかりアミタイツ装着。ティーンのアイドル、アリアナ・グランデを真似てポニーテールに猫耳、目元にがっちりアイライン、お尻にしっぽをつけてセクシーネコちゃんに変身。出来上がったネコちゃんの写真をセレ子に送ると ”化け猫”との評価。

だよね。やっぱり。40過ぎの化け猫だ。
まあ、いいか。ハロウィンだし。化け物のお祭りでしょ。

S「しかし、1年早いわよねー。」

1年前のあの晩は、女友達の誘いでハロウィンライブへ。

ライブの内容は不明のまま「仮装してきて」とだけ告げられ、アリアナ改め”化け猫”のいで立ちで青山のジャズバーに到着。”化けウサギ”の女友達と互いの姿に失笑した後、これまた完成度の怪しい、ガンジーやマリリンやデビット・ボーイと軽いあいさつを交わし、ステージ前の席に着いた。

紫色のカクテルでひとまず乾杯。演奏を待っていると、ザワつくテーブルの間を縫って、真っ黒な長いマントがステージに向かってきた。ルーズに髪を撫でつけた、ひょろっと背の高い男。チェット・ベイカーみたいに影のある顔だちや繊細な指、体にまとう気怠い空気感。全ての要素が私のど真ん中を的確に刺激した。

彼がピアノの前に音なくふわりと座る。

「今晩は。ドラキュラです。」

神経質そうな風貌に不釣り合いなジョーク。一瞬客席が静まり、何人かが笑い声を立てた。下手なジョークをかき消すように、ピアノからアップテンポなメロディーが鳴り響く。今宵のハロウィンライブの始まりだ。神経質そうな風貌に不釣り合いな甘く切ないドラキュラの歌声に、胸がどきり。時折見せる熱っぽいまなざしが、ドラキュラへの好奇心を一気に加速させた。

30分ほどのライブが終わる頃、気分はまるでミュージシャンに恋するティーンエイジャー。TVドラマのアリアナみたいに、長いつけまつげをパチパチさせて、ドラキュラを見つめる私の瞳はハート型になっていた。私には特技がある。すぐ、恋してしまう特技。または、恋と勘違いしてしまう特技。

ミュージシャンはズルい。その人の正体はどうであれ、スポットライトを浴びてリズムに合わせ体を揺らし歌う姿は、キラキラと魅力的に見えてしまう。非日常なハロウィンのお祭り騒ぎとコスチュームが後押しして、バカバカしい勘違いも、本当の恋にすり替わる。

私の中のアリアナから司令が飛ぶ。

( 彼に話しかけて )

脳内アリアナに操られるまま、バーカウンターで真っ赤なカクテルに口を付けるドラキュラの元へ。

「今晩は。ドラキュラさん。私、誰かわかります?」

私の唐突な質問に、一瞬彼はポカンとして

「当てたら、何か賞品はあるの?」

いたずらっ子みたいな笑顔に不意を突かれ、胸のドキドキが店内のBGMぐらいに鳴り響く。

「賞品? 当たればね」

ドキドキがバレないように、クールに返す。

「じゃあ…。当てたら、僕の言う通りにしてくれる?」

脳内アリアナがガッツポーズ。
そして、全力で叫んだ。

( 言う通りにするー!絶対、当てて!!!!!)

「どうかしら…」

”言う通りにならないオンナ風”を演じて、ドラキュラを横目でチラリ。

カンパーイ!とガンジーやマリリンやデビット・ボーイが大騒ぎする深夜0時。見つめ合うドラキュラとアリアナのまわりだけ時間が止まり、恋のスポットライトが2人を照らしていた。


To be continued

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