人生長く生きると経験が多くなり、経験の数が多くなると、失敗の数も多くなる。
とくに男性関係の失敗が豊富な私。"穴があったら入りたい状況"に、何度となく遭遇してきた。
もし、失敗のたびに穴を掘っていたとしたら、今ごろその穴は日本の反対側のブラジルまで貫通しているであろう。

ある朝、目を覚ます。ダルい身体。アルコールの匂い。
焦点の合わない目で周りを見渡す。「ん?」
見覚えのないダークグレーのカーテン、洋書が並んだ本棚に、背の高い観葉植物。「は?」
知らない匂いのブランケット。一緒にくるまっている男。うっすらヒゲのはえた外人が横で静かに寝息をたてている。「お!?」

昨日、代官山でミーティングの後…。
バラバラに散らばったジグソーパズルのピースを、頭の中で一個ずつはめていく。
満月、寄り道、シャンパン、微笑む男、タクシー、西麻布のラウンジ、テキーラショット、笑い声、ヒゲの感触…。必死に搔き集めた記憶のピースは、そこで途切れた。

寝ているヒゲ外人のカールした黒髪越し、デジタル時計の真っ赤な数字が私に"警告"を告げる。
すでに朝の10時。「あちゃー!!!」
今日は11時から大事なミーティング。

「やばい、遅刻する?」

というか、自分が今どこにいるのかさっぱりわからないので、ミーティングに間に合うのか間に合わないのかが全く読めない。わかっているのは、自分が素っ裸であることから推測して、このヒゲ外人と男女の一線を超えたのは間違いない…と、いうことだ。

じーっと顔を覗き込む。ラテン系のハンサム…。

「えー」

肝心なところの記憶がない。もーバカバカ。
じゃなくって…。
私ってば、いい年して何やってんの!?
混乱する思考回路。
落ち着け…今は安っぽい自己嫌悪と遊んでいる暇はない。この見知らぬ部屋とちょっとだけ見覚えのあるハンサムヒゲ外人に早くオサラバして、ミーティングへ急がねば。

はたと、マズいことに気が付いた。
今日のミーティングの相手は昨日と"同じ"、ひと。
それもかなり"スペシャルな"、ひと…なのだ。

「トウキョウで今、"一番ホットなアーティスト"としてあなたを特集したい」

ある日、届いたメールに私の脳ミソはぶっ飛んだ。
ロンドンのインディペンデント系お洒落カルチャー誌から突然のメール。
ユニークな審美眼で世界から一目置かれ、最先端を突っ走るイギリス人編集長サマ直々、私にインタビューしたいとの要件。喜びを通り越し、恐縮して、超ビビりまくった。

そして、ついに来日した編集長サマと、昨日から2日間に渡る真剣勝負のインタビューセッション。
その大事なインタビューに、遅刻はありえない。が、トウキョウで今、"一番ホットなアーティスト"のワタシが、2日間連続で同じ洋服はマズイ。遅刻よりも、ずっとずっと罪深い。

家に帰って着替える時間はないし… 。
「もー、どーすんのよ…」
自分を責めても、もう遅い。
とりあえず、今頼れるのは神様でも仏様でもない。
目の前で寝ている、このハンサムヒゲ外人だけだ。


To be continued

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