昨日の夜。

イギリス人編集長サマとの2日目のインタビューが上手くいったことに上機嫌になった私。
張りつめていた緊張から一気に解放され、ひとり代官山のバーでシャンパンを一杯飲んで帰宅。明日2日目のインタビューに控え、早めに寝なくちゃね…。と、そのつもりが、ハンサムヒゲ外人登場で予定が大幅に狂っちゃって、このありさま。

アルコールの匂いプンプンのスッポンポンで、見知らぬ男の隣で目を覚ましたワタシ。
他人のベッドの上で、軽率な自分を深く深く責める。
二日酔いのムカムカと頭痛と自己嫌悪。最悪の組み合わせだ。

ベッドにうつ伏せに寝ているヒゲ外人。
彼の家に着いた後の記憶がぷっつり途切れているが、ベッドの周りに散らかりまくっている洋服と軽い筋肉痛が、激しかったであろう彼との一夜を想像させる。

ヒゲ外人の綺麗に筋肉のついたセクシーな背中…。
思わず見とれそうになりながら、おっと、そんな場合じゃない!
一晩中まさぐっていたであろうヒゲ外人の背中を、初めて触れるように恐る恐る指先でつついた。

「ヘイ。ちょっと起きて。」

具合い悪そうなヒゲ外人の片目が開いた。
かすれたセクシーな声で。

「オー、ハイ。」

「あの。何か着るもの貸してくれない?昨日と同じ格好じゃダメなの。」

「頭が割れそう… 。何? 君が着るもの?ないよ、そんなの。」

「いやいや、まずいの。とにかく、なんでもイイから貸してよ!」

ミイラが棺おけから這い出るように、のっそりと起き上がったヒゲ外人。
クローゼットから面倒くさそうに何か引っ張り出して、私の前に突き出した。
ヒゲ外人の手元から"それ"をひったくって、バスルームで慌てて着用。
バシャバシャっと寝ぼけた自分の顏に冷水で喝を入れる。
部屋に散乱している洋服を拾い集め、玄関に落ちていたバックに詰め込んで、靴箱の上にあった帽子を失敬。グチャグチャの頭にのっけた。
ドアを飛び出して、見知らぬ商店街を抜け、通りかかったタクシーをとめて表参道へ。
渋滞の信号待ちにイライラしながら、乾いた唇にグロスを塗った。

11時ちょっと前。ミーティングに何とか間に合い、ギリギリセーフ。

「グッドモーニング。ワオ! 君はサッカーファンなの?それは、どこのチームのユニフォーム?」

編集長サマが興奮して私に言った。

いや、知らない。スポーツ好きじゃないもん。サッカー好きなわけない。
さっき、ヒゲ外人からひったくった"それ"は、鮮やかなブルーのサッカーユニフォームだった。

「スポーツテイストが流行ってるでしょう?最近。」

ここは、笑顔でゴマかすしかない。
そうだ。あのヒゲ外人、"サッカー関連の仕事してる"って言ってた。

「それ、ペルーの帽子でしょ!先月、ペルーのマチュピチュに行ったけど素晴らしかった。アナタのファッションセンス、最高!」

ペルー?マチュピチュ?
そう、ワタシの頭の上にはヒゲ外人の家から失敬してきた、南米のお土産らしきニット帽がのっかっていた。偶然が重なって出来上がった、とんちんかんなスタイリング。サッカー好きでペルーに行ったばっかりの編集長は"ファンタスティック"と、大喜びしていた。最先端すぎる編集長サマの目には、スタイリッシュに映ったのだろう。
失敗どころか、大成功。
結果オーライ、ヒゲ外人に感謝しないと。

3時間に及ぶインタビューとフォトセッションが終わって、満足気な笑顔の編集長。
ホッと胸をなでおろす私。雑誌の掲載が楽しみだ。

1ヶ月後、ついに私の掲載ページがメールで送られてきた。

「とってもエキサイティングな内容になったよ。ありがとう!」

編集長サマからのメッセージに期待が膨らむ。
これでワタシもグローバルなセレブの仲間入り。
華やかにスポットライトを浴びる自分を思わず想像してしまう。
ドキドキしながらデータを開くと…。

「あちゃー」

パソコンの画面を見て、汗が一気に吹き出た。

そこには…、

"リアルでアグレッシブなオンナ"

の、タイトルと共に、首筋に真っ赤なキスマークを付けて、クールにポーズするワタシの写真がドーン。

"自分の経験を等身大でアートに表現するユウミ。首のキスマークも彼女のアート作品そのもの"

えー!!!編集長!言ってよー。キスマークついてるって。

"ダリは頭にフランスパンをのせ、レディーガガは生肉のドレスを着て、ユウミはキスマークをつけて登場し世界を挑発する。"

何だか、ドラマティックな話になってる…。記憶すらない、ただのキスマークなのに…。

そんなこんなで、今トウキョウで、"ホットなアーティスト"であるワタシは、派手なキスマークをつけて華々しく世界デビューを果たした。

今さらですけど…
穴があったら入りたい。


END

画像: "リアルでアグレッシブなオンナ"
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