去年の夏。

私はNo.3ロンドン・ドライ・ジンを使ったマティーニを片手に、銀座のバーのカウンターに座っていた。地下のヒンヤリとした空間にゆったりと流れるセクシーなジャズ。一人まどろんでいる私の隣に、ヒョコッと座った場違いな男の子。それが、健太だった。老舗バーの重厚な雰囲気に圧倒され、見るからに落ち着きのない彼がかわいそうで、思わず声をかけてしまった。こういう時、私は無駄なお節介を発揮する。20歳年下の20代の男の子。まったく共通点のない若い子とちょっとだけ(暇つぶしも兼ねて… )会話するつもり。が、天才バーテンダーが作るカクテルの魔法で二人の距離は( 予想を大きく外れ… )その夜、一気に縮まってしまった。

あれから、5ヶ月。

気が付くと健太は毎週末、私の家にいる。料理好きの健太。スーパーであれこれ食材を買ってきては、ミートパイやらラザニアやら手の込んだこってりハイカロリーな料理を披露してくれる。「夕美ちゃん、何食べたい?」と毎回聞いてくる。が、さっぱりした和食はどうせ却下されるので、メニューは健太に全てお任せだ。コーラで乾杯して、健太がレンタルしてくるグレンミラー物語やスーサイド・スクワッドなどの映画を見ながら、大量の食事をたいらげる。それが、私達の週末の定番となった。

20歳年下の男と付き合ってわかったこと。
大変なのは激しいセックスではなくて、激しくハイカロリーな食事だということ。
健太と知り合ってから、私の胃はヘトヘトだ。

初めて接触した普通の会社員の健太。私が今まで出会ってきた男は、アーティストやミュージシャンや大企業のCEO。アクの強い男、個性的な男ばかり。だから"普通"という2文字は私にとって未知の世界。"普通"がやけに刺激的だった。普通の男と過ごす、普通の時間が、普通に面白く感じたのだ。

二人で過ごす平凡で平和な時間。
でも最近、健太の発言が引っかかる。

いつものように、ソファーの上で健太と普通にテレビを見ていると、

「この子、マジ可愛いよなー」

大人数のアイドルチームの真ん中で歌っている女の子を見て、健太が嬉しそうに笑っている。リボンの付いたドレスの裾ををヒラヒラさせて微笑む、ハタチそこそこの女の子。シワもないセルライトもないピチピチの白い肌。健太にベッタリと寄りかかっていた自分の体を一瞬離して、画面に釘付けになってるアホヅラを横目でジロッと睨む。

気分が悪い。

が、私は大人の女。そんなことにいちいちヤキモチ妬いてもバカみたいだし。聞こえてないふり。

今度はアイスのCMに出ているハーフの女の子を見て、

「うわ、メチャクチャ俺のタイプ!」

カメラ目線でアイスをペロっと舐める、ピンクのほっぺに大きな瞳の女の子は確かに愛らしい。
最近なにを塗っても水分不足の自分の頬をプンと膨らませて

「ふーん、健太は面食いなんだ」

「そーだよ」

悪気なく答えた。

ある日、二人で地下鉄に乗っていたとき。途中の駅でミニスカートの20代の女の子が乗ってきて私たちの前の席に座った。

嫌な予感…。

「超絶、可愛いな!」

嫌な予感通り、健太がニヤニヤしている。

「隣の外人も見てるよ」

ミニスカートの子の隣の外人男も、あからさまにその子をジロジロ見ていた。男は世界共通バカだ。

「そんなに、可愛くないじゃん」

さすがにムッとして反論した。

っていうかさ、何なのよ!?私の前で他の女を褒めすぎでしょ!?
それもさあ、若い女の子ばっかり…こっちはアラフォーだっちゅうの!
どういう神経で発言してるのよ!もーバカヤロウ!

と、心の中で叫んだ。

電車の窓に映った不機嫌な自分の顔がやけに老けて見えて、さらに落ち込んだ。

To be continued.....

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