「あはははは~!夕美さん、羨ましいわぁ~。20代の男の子とお付き合いしてるなんて」

健太の度重なるデリカシーのない発言に怒りまくって愚痴る私を、マスクをかけた中島主任が甲高い声で笑った。

「ひどいでしょ!こっちはアラフォーなのにさ。そのアラフォーの前で、20代の女の子を可愛い可愛いって。じゃあ、何で私と付き合ってんのよ!?」

中島さんは美容皮膚科の主任。お仕事上、クリニックの診療メニューを全て自ら試しているおかげで、アラフィフの中島主任のお肌はピッカピカのツルツル。中島主任の顔は重力に逆らって、いつも上向きだ。ビビリの私はハードな診療には手を出さず、毛穴ケアとか美白ケアをちょこちょこっとするぐらい。クリニックには年に2、3回しか来ないし、飲みすぎた夜なんかは顔も洗わず寝てしまうので、肌の状態は自慢できたものじゃない。最近は肌のたるみが容赦なく襲ってきて、ほうれい線やらブルドックラインやら、老化は確実に進行している。そこに追い討ちをかけるように健太が若い女の子を褒めまくるから、すっごい落ち込んじゃう。

「ねぇ、夕美さ~ん。試してみない?グッと上がっちゃう例のヤツ」

「例の…」とは、頬に上から斜め下に向かって糸を入れ、グイッと引っ張って一気にたるみからおさらばできる施術のこと。顔にメスを入れずに長ーい針を突き刺すだけで、施術もすぐ終わって、顔の腫れも数日で引くらしい。これで、5歳…いや、10歳は確実に若返る。もちろん上向きの主任の顔にも何本かの糸がバッチリ入っている。

「ちょうど先生も時間が空いてるし。今ならすぐご案内できますよ~」

天気の良い週末のカフェで、テラス席を勧める店員みたいな中島主任の明るい声に、痛みに弱いビビリの私も思わず、

「じゃあ、お願いしまーす」

明るくお願いしてしまった。

施術は思ったよりも簡単で、あっという間。部分麻酔をかけて長ーい針をブスブスっと突き刺していくビジュアルはグロテスクだったけれど、これで私も上向き!ちょっと頬が腫れていて、針の通った跡が残っているけど数日後が楽しみ。顔が麻酔でマヒして笑えないけど、アイドル並みに若返った自分の顔を想像して、心はニッコリ満面の笑み。

次の日の朝。眼が覚めると顔が…熱い。頬にそっーと触ってみると、

「ひえええー!」

腫れがまったく引いていない。引いていないどころか、腫れがヒドくなっている。やっぱり、やめとけばよかった…と、後悔してももう遅い。恐る恐る鏡を覗き込むと、誰なんだかわからないくらい変形した顔がそこに映っていた。怖くなって中島主任に電話したけれど「出ないじゃーん!」慌ててタクシーでクリニックへ行ったがドアには鍵がかかっていて人の気配もないし!!!

どんどん腫れていく顔。しびれて感触もない。
風船みたいに、ぱんぱんに膨らんで膨らんで。

「バーン!」

大きな音を立てて、顔が破裂した。

「ぎゃああああああああああああああ!」

思いっきり、叫んだ。

「夕美、どうしたの!!!!?」

驚いて覗き込む、健太の心配そうな顔。

「顔、顔が…」

泣いてる私。

「怖い夢見たの?」

優しく問いかける健太。

「うん」

大丈夫?と、健太が私をぎゅっと抱きしめた。

「ねー健太。私って、オバさん?」

「朝から何言ってるの?」

「私って、ブス?」

「オバさんでも、ブスでもないよ。夕美ちゃんはキレイだよ」

「じゃあ。他の女の子のこと褒めないで!」

と、言おうとした。が、その言葉をグッと飲み込んで、代わりに

「健太、明けましておめでとう」

見た目の若さより、人生にはもっともっと大切なことがあるだろう!?
ぐちゃぐちゃくだらないこと考えとらんで、自分磨きに精進せんかい!
目を覚ませ!夕美!
と、初夢がきっと私にカツを入れてくれたんだ。

「よっしゃー!」

ベッドから勢いよく起き上がり、お気に入りのジャージに着替えて、まだブランケットにくるまっている健太のほっぺにチュー。新品のスニーカーのひもをキュッとしばって、ウォーキングをしにひとり外へ飛び出した。

明るい太陽。明るい私の新年。

そうだ!私は経験豊かで、自立していて、聡明で、強く、美しい!

元旦からポジティブ精神全開!

「今年も私らしく、張り切っていくぜー!」

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