今日はバレンタインデー。

2年くらい遠距離恋愛して、大ゲンカして、連絡が途切れて、フェイドアウトしていったあの人。
私はもうあの人の"特別な人"じゃない。
わかっちゃいるけど、バレンタインを言い訳にメールを送ろうかどうか、朝からグズグズ迷っているダサい私。

いつもそう、私は諦めが悪い。

おととしの夏。
"オトコとオンナのアレコレ"と、題してちょっとエロティックなイラストの個展を開いた。
最終日の夕方、そろそろギャラリーを閉めようとした時、ひとりの外国人男性がフラリと入ってきた。

「もう、クローズの時間ですか?」

と、その男性が柔らかく私に微笑みかけた。

「大丈夫ですよ。あなたが今日最後のお客様」

「サンキュー。僕を追い出さないなんて、君は親切だね」

白い歯がキレイに並んだ人柄の良さそうな笑顔。整ったヘアスタイル。
スッキリとしたライトブルーの半袖シャツにデニムパンツ。
50代らしきのその男性は、穏やかな物腰の人だった。

興味深そうにひとつひとつ作品の前に立ち止まっては、近寄ったり離れたり。
楽しそうに鑑賞している姿が何だかカワイくて、思わず目で追ってしまった。

最後に私の写真入りのプロフィールを見つけて

「全部、君の作品?」

「イエス」

「ワオ!君は親切でセクシーで英語も話す上に、絵の才能もあるんだね」

と、私に向かってウインク。

彼の褒め言葉が大袈裟すぎて、ウブな娘みたいに(ウブじゃないけど)思わず顔が赤くなった。

「それに、シャイなんだね」

親切で才能ある日本人女性アーティスト。セクシーな黒のワンピース。
そして、赤くほてった頬が良い演出となり、このジェントルマンの気を充分に引いたようだ。

「僕は今、ビジネスで東京に滞在してるんだけど、もしよかったらあなたを食事に誘っても良いですか?」

誘うのが当然かのような、余裕たっぷりの彼の笑顔。

えー、マジ!いきなり…?
話の展開が早すぎる。
もしかして、詐欺師?アブナイ人かも。
誘い方がスムーズすぎる…。

「そんなのフェアじゃないわ。あなたは私が何者かわかっているけれど、私はあなたのこと何も知らない。それに私…結婚してるかもしれないでしょ?」

と、咄嗟に出た私の言葉に、彼はイタズラっ子のような表情で

「してるの?」

「してないけど」

「じゃあ、誘うのはノープロブレムだね。これ、僕の名刺」

デニムのポケットからブラックレザーのカードホルダーを取り出し、スッと私に名刺を差し出した。アメリカの会社。肩書きは…CEOかぁ。っていうか、名刺だけじゃあよくワカラナイ。

「うーん…」

私が困惑していると、テーブルに置いてあった私の名刺をさっと手に取り

「オッケーわかった。今晩、君のカードに書いてあるアドレスに僕が何をしているかメールで送るよ。いい?」

すごく爽やかな口調だが、しっかりと押しは強い。
もしかして、かなりのやり手ビジネスマンなのかもしれない…。

「怪しい人じゃないと判断したら、僕との食事、考えてね」

どんどん進んでいく彼のペースに、すっかりのみ込まれた私。

思わず「OK…」

「じゃあ、僕これからミーティングなので。また!」

引き際も鮮やかに、あっという間に去っていった。

すぐさま、彼の名刺に書いてあった会社名を検索してみると、あらま、かなりの大企業。会社のホームページに、さっきここにいた彼の写真があった。同じ笑顔。本当にCEOなんだ。

その夜、アメリカの経済誌に掲載されている彼の記事や、TVに出演している彼の動画がメールで送られてきた。

約束通り、これが僕の自己紹介。
明日ひざびさに美味しい"スシ"が食べたいけど。
キミの好きな食べ物はなに?

By the way, 僕も結婚していないよ。

自信満々のCEOは怖いものなしだ。
断る余地を相手に作らせないようソフトだが、グイグイ攻めてくる。
それに、相手が自分を"絶対受け入れるであろう"という確信が、メールの行間から溢れ出ている。

ふーん。大体の女はこれで落ちるんだろうな…。

「NO」と、突きつけてCEOのプライドを石ころみたいにヒールで蹴飛ばすのも面白いけれど、私も久々に美味しいスシが食べたい。

そして何よりも、自信満々のCEOにすっかり興味が湧いてしまった。

I love SUSHI.
私もスシ大好き。
私たちもうすでに共通点がふたつ。
スシが好きで、結婚してない。

明日の8:00pmから空いてます。

あっさりと、CEOのペースに乗っかった私だった。

To be continued.....

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