TJからメールが届いた。

"アメリカの建築雑誌から表彰されることになって、来月パーティーがあるんだけど"

『君に来て欲しいんだ』

きゃぁあああああ!

私の大大大好きなTJがパーティに来て欲しいって!
それも、記念すべきスペシャルな日に!
スペシャルな日に、スペシャルなガールフレンド、ってこと!?

"来て欲しい"って、ニューヨークに来いってことか。

恋焦がれてるTJのお願いだもの…
もちろん行くでしょう!!!!?

スケジュールは…ちょうど空いてるじゃん!
でも、お金がなぁ。飛行機とホテル、結構かかるもんなぁ。

「あ!」

家の引き出しの中に、長いこと使っていないロレックスが眠っているのを思い出した。

「えーい、売っちゃえ!」

思いついたら吉日。

その日にロレックスに別れを告げ、旅行に充分な軍資金をゲット。
インターネットで速攻、飛行機のチケットを購入、ホテルも予約した。

恋の力は強い。
女をポジティブに、そして行動的にさせる。

私の友人、ゲイで妹分のセレ子は
「TJに会うためにロレックス売ったの?呆れたあー。相変わらず、姉たまは熱い勘違い女ね!」
タバコにむせながら、大笑いした。
「まあ、そこが姉たまのいいとこ。やっとTJとベッドイン出来るんだから、思う存分ヤッてきて!」

そうなのだ…。

TJとチャットセックスはさんざん経験したものの、"本当の"はまだ、未経験。

でも、もうかなりTJの "好きなこと"は分かってる。TJも "私の"を分かってる。
お互いの事前リサーチは完璧だから、その日はきっと恐ろしいほど盛り上がるはず。

想像しただけで、卒倒しそう。

ニューヨークへ出発前の駆け込み寺、エロいセンスに関して、私が絶大なる信頼を寄せるニューハーフ、ジェシカが働くランジェリーショップへ。

「あら、素敵なお話!ユウミさん、よっぽどそのTJに惚れてるのね。セクシーな下着で、世界で一番熱い夜にしましょうよ!」

こういうとき持つべきものは、セックスの重要性に理解のある友達だ。

TJに火がつきそうな、挑発的なランジェリーをジェシカとチョイス。
鏡に映る自分のランジェリー姿に向かって、思わずピースした。

数週間後、私は待ちに待ったニューヨークへと降りたった。

スピード全開の危なっかしいタクシーに乗ってホテルに着いた私。
さっそく、大きなラゲージの中身を部屋いっぱいに広げた。
そして、素早く洋服を脱ぎバスルームへ一目散。
頭のてっぺんからつま先までピッカピカに磨いた。

BGMはビリー・ホリデー。
ローズのボディークリームを丁寧に肌に塗り、セクシーな下着姿のままヘアーを緩くまとめる。
いつもより強めにアイラインを引き、唇にはマットなワインレッド。
体のラインを際立たせるベージュのシルクサテンのロングドレスに華奢なヒールを合わせて。
最後の仕上げに、パフュームを耳元と足首に。

いざ、"マイ・ダーリン" TJの元へ。

会場に向かうタクシーの中、胸のドキドキが止まらない。
さっきホテルの部屋で、ちょっと口にしたワインのせいか、すこし頭がクラクラ。

「私、恋してる」

会場に着くと、そこは授賞式のセレモニーらしく華やかな雰囲気。
入り口でゲストリストのチェック。
自分の名前を伝えると、「ようこそ」と、赤毛の女性が私がに向かって微笑んだ。

「私のBFが、授賞するの!」
思わず、そう言いそうになって、言葉を飲み込む。

オシャレなフィンガーフードをつまむ、オシャレなゲスト達の間を縫って、オシャレなユニフォームのウェイターが微笑む、オシャレなドリンクバーへ直行した、オシャレな私。

オシャレのてんこ盛りだ。

TJのお祝いだもの、まずはシャンパン!
興奮で少し震える両手で、泡が躍る金色の液体を口元へ運んだ。

ステージでは、TJの光り輝く功績を讃えるスピーチが始まった。
そしてそこに、恥ずかしそうなJTが登場。

センスの良いブラックタキシードを着た今晩のTJは、完ぺきなジェントルマン。
だけど、初めて見たときと同じ、めちゃくちゃキュートだ。
そして、あの声…。低くて、セクシーな声。

TJのスピーチが終わり盾が手渡されると、大きな拍手の中、私はTJに向かって
「コングラッチュレイショーン!」
と、シャンパングラスを持ち上げた。

祝福しようとTJに押し寄せるゲスト達の波が引くまで、ちょっとガマン。
だって、私はTJの"スペシャルガール"だもん。
それまで、シャンパンを楽しもう。余裕の笑み。

30分後やっと、TJが自由の身になり私の元へ。

「ハロー、ユウミ。また会えて嬉しいよ」

恥ずかしそうに、ちょっと距離を置くTJの最高にキュートな顔。

待ちすぎた上に、シャンパンでちょっと酔っちゃって。
かぶりつくように、思いっっっっっっっきりTJに抱きついた。

「TJ、おめでとう!もう、スゴくスゴく会いたかった!!!!」

強く強く強くTJに抱きつく私の後ろから

「ハロー。今日は彼のために東京から来てくれて感謝します」

女の声。

ん?

振り向くと、白い清楚なドレスを着た女性が立っていた。

「ユウミ、こちら…僕のフィアンセ」

ん???

驚きのあまり、状況を理解できない脳みそと緊急会議。

なに言ってるの、TJ?
今、フィアンセって言ったよね?
フィアンセがいるのに、何で私、東京から呼ばれちゃったわけ?

凍りついた作り笑いのまま、混乱で足をふらつかせながら会場の外へ。
タクシーに乗って、ホテルの部屋へ戻った。

「うそ~やだ~、なにそれ?」

店内に響き渡るような音量で、アンコが叫んだ。

次の日、ホテルの部屋に謝罪しに来たTJの話によると。
前からなんとなく関係のあった女性が、TJのベイビーを身ごもった。
ちょうど私がニューヨーク行きの飛行機に乗ってる間に、妊娠のことをその女性から告げられたらしい。
その女性、TJが教授をしている大学の学長の一人娘。
TJの将来を握る女性から迫られ、慌てて結婚を誓うハメに。
まあ、そうなっちゃうよね。

「でも、愛してるのは君だけだよ」

そんなセリフ、もう何の慰めにもならないし。
セクシーな下着も、売ったロレックスも、意味なかったか。

私に謝り倒して、愛してもない女と予期せぬ結婚生活を始めるTJ。
何だか哀れで、許してあげた。

「ひさーん!」

あれこれしゃべっているうちに、オーダーした"ココナッツ担々麺"と"カリフォルニア丼"がテーブルに運ばれて来た。

アンコと私は、それぞれ一口食べて。

「ひさーん!」

若干予測していた通り、マズかった。
あまりの悲惨さに、ふたりで大笑い。

苦い恋愛の思い出、マズイ食事。

それでも大好き、ニューヨーク。

今までも、これからも、愛しいこの街への気持ちはずーっと変わらない。

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