「姉タマ、相変わらずご盛んだこと。」

一応、年下の彼氏らしきヒト、健太がいるもんで。
他の男からのデート的な花見の誘いに、乗ってイイものかどうか…。
一応、妹分であるゲイ友、セレ子にご相談チャット。

「なに、つまんないコト気にしちゃってるの!? 」

「これって、二股?」

「年下男とは一年間だけのアバンチュールでしょ?」

出会った時、健太から告げられた。一年後には海外へ赴任するってこと。

「どうせ割り切った関係。年下男だって姉タマのこと利用してるじゃない」

図星です。

期間限定の恋愛ごっこに、私も乗っかったのだ。

だから、付き合ってるとかそうじゃないとか、お互い確認もしてないし…。
「今日行っていい?」っていう健太の質問に「いいよ」と、8ヶ月間返事し続けた。
ただ、それだけ。

「ネータマは今までも、これからも自由な女!好き勝手やっちゃいなさいよ!」

セレ子の説得力のあるような、ないような、毒っ気のあるエールに押しきられて

「そーだ!ただの花見だもんね」

ドラキュラから渡されたカードに書かれている住所に向かって、とりあえず電車に乗った。
そっか、名前はヨウスケだった。

「ここかな?」

"CLOSE"と書かれたプラスチックの札が下がっている真っ黒なドア。
そぉーっと、そのドアを開けて中を覗いてみると、遠い記憶を呼び起こす古い匂い。
店内を見回すとそこは、ジャズが流れるレコード屋だった。

奥からヨウスケがやってきて、

「いらっしゃい」

嬉しそうな笑顔に、私も自然と嬉しくなった。

「ここって、自分のお店?」

「十代から集めていたレコードが増えすぎちゃってさ、処分するのもなんだし。で、レコード屋でもやるかって、単純な発想でね」

アンティーク好きなレコード屋のピアノマン。
サラリーマンの健太よりも、話が合いそうだ。

「今日はお休み?」

「そう」

「で、どこでお花見するの?」

「チョット 待ってて。」

と、言って奥のドアに入ると、ガタガタ音をさせて何か引きずり出してきた。
それは、彼の背丈ほどある桜の木だった。

「うそ!?」

「外の花見は人でいっぱいだし、今日店は休み。だから、ここで花見がベストかなと思って」

ベストどころか、これ以上のベストなお花見なんて、想像つく!!?
今世紀最高のお花見でしょー!

ヤバイ。私の"好きモード"にスイッチが入ってしまう。

レコード屋の真ん中に咲く淡いピンクの桜。
ヨウスケは手際よく、床に趣味の良いビンテージっぽいキルトのラグを敷くと、氷の入ったシルバーのバケツにシャンパンのボトルを無造作に突っ込んだ。ペーパーボックスに入ったサラダや、チーズ、 バゲット、魔法のように次々と出てくる料理に、私はただただ唖然とした。

「まさか…作ったの?」

うそでしょ。

「ミュージシャンだけじゃ食っていけないから、いろんなアルバイトしているうちに、料理もできるようになってさ」

一昨年のハロウィンパーティーでのライブ。
ドラキュラのコスチュームに身を包み、ピアノの弾き語りをする彼に、一瞬で夢中になった。

その彼が用意してくれた、 私のための桜、私のためのシャンパン、私のための手料理。
ゆったりと切なく流れるセクシーなジャズ。
優しく私に微笑む無精ヒゲがセクシーなヨウスケ。
ふたりっきりのお花見。

なんていう、ロマンティックなシチュエーションだろう。
彼に促されるまま、床に腰を下ろし、手渡されたシャンパンで乾杯。

この人、どういうつもりなんだろ?

食が合うコトは大切と言われるが、彼の料理はどれもこれも私好みのテイスト。
それだけで、すべての相性が合っているような気がしちゃう、勘違い上手な私。
真っ赤なトマトを頬張る彼の口元を、チラ見。ヨウスケのエロい唇。

頭の中のイケナイ想像を読まれそうで…。
ヨウスケのまっすぐな眼差しに耐えられなくなり、ふと目をそらす私。
ピアノを弾くみたいに、シャンパングラスを持つ私の手にそっと触れる、ヨウスケの綺麗な指先。
ネオンピンクの電流が私の身体を駆けめぐって、ハート型のネオン管がピカピカ点滅した。

と同時に、健太の顔が頭にチラついて、ハッと自分の手を引っ込めた。
とっさに頭に浮かんできた"裏切り"の文字。

「私、彼氏っていうか、彼氏みたいな人がいて…」

言わなくてもいいのに、ナゼか言っちゃった。

「でも、君は今、僕と一緒にいる」

そう…。ヨウスケに会いに来るコトを選んだ。ヨウスケに会いたかったんだ。

何も言えずにいると

「友達でいいじゃない。」

ん?

「僕は君に興味があるし、君に会いたいと思った。君も僕に会いに来た。それでいいんじゃない?」

それで、いいの?

混乱して彼の顔を見た。
静かに笑っている、無精ヒゲのヨウスケ。

「お互いを知るには、時間がかかるし。その彼氏みたいな人とも、この先どうなるかわからない。君と僕とのことは焦らなくてもいいんじゃない?」

それで、いいの?

優しくて、料理ができて、センスが良くて、物分かりの良い男、その上ミュージシャン。
裏があるに決まってる。
わかっちゃいるけど、惹かれてしまった。運命のイタズラを憎むしかない。

そもそも、男女が"付き合う"ってことの定義ってなんだ?

自問していると、携帯から着信音。

「今日行っていい?」

健太からのメールだった。

「今日は忙しいの」

と、返信。

サウンドをオフにして、携帯をバックパックのポケットにしまいこんだ。

私の横に座ろうとしたヨウスケの身体が桜の枝に触れて散った花びらがひらひら、私のグラスの中に静かに舞い落ちた。

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