日系ブラジル人の女友達、サンドラがリオ・デ・ジャネイロへ里帰りすることになった。悪名高き犯罪都市。
ジャパニーズの私、オンナひとりで行くのは無理だけど、気のいいブラジル人のサンドラが一緒なら行くしかない!ってことで、30時間かけて未開の地、日本の反対側へ飛んだ。

リオ・デ・ジャネイロの飛行場に着くと、そこにはサンドラの友達が待っていた。

「オツカレサマデース!」

目の前にドーンと立ちはだかっていたのは、キラキラのメークにボリュームいっぱいのウィッグとヒールを含めて190cmはありそうな大女。

「メッチャ、会いたかった~」

派手な巨体がサンドラに覆いかぶさってきた。

「ハジメマシテェ、ジャネットで~す!」

大きな両手で私の手を包み込んで、強く握手をした。

ジャネットは以前、10年ほど日本に住んでいた。
大阪の警察で犯罪者相手にポルトガル語の通訳のアルバイトをした後、新宿二丁目のゲイバーのママに転身という、ヘンテコな経歴の持ち主のジャネット。巨体をクネらせながら、大阪弁の混じったオネエ言葉で話すその姿は、見慣れると愛らしい。

リオ・デ・ジャネイロの滞在中は、大きなオカマのジャネットがボディーガード兼、ガイド。

「ユウミちゃん、ブラジルの男に興味あるやろ~?」

イケイケのジャネットがクラブに行くことを提案してきた。
珍道中の幕開けにふさわしいアイディアだ。

「その土地を知るには、まずはその土地の人間とのスキンシップが大事やねん!」

流暢な大阪弁で、ジャネットが言った。
ジャネットとは気が合いそうだ。

タクシーを飛ばして巨大なクラブに到着すると、すでにそこは男の群れで熱気ムンムン。
3人は迷わずバーカウンターに直行した。

「ブラジルにカンパーイ!イケメンにカンパーイ!」

ジャネットのイケてない乾杯の音頭と共に、今宵のパーティーの始まり。
グビッとシャンパンを飲み干すと、ジャネットとサンドラを置いて私はひとり、ライトきらめくダンスフロアへ突入した。

情熱的な真っ赤なワンピースにシルバーのヒールで、音楽に合わせ体を揺らす私。
なのに、誰も寄ってこないじゃん…。
どうした?ラテンの男たちよ!?

ん?

横を見ると、イケメン同士が抱き合いディープキスを始めた。

これって、もしや?

よくよく周りを見渡すと、フロアは男だらけの男祭り。
カップルの男たちは仲良く体を寄せ合い、シングルの男たちはお互いを品定めしている。
お門違いな自分が滑稽で、一気にテンションが落ちた。

もー、ジャネット!ゲイナイトじゃん…

ラテン男とのドラマティックな出会いをすっかり諦めた私の目の前に、褐色の肌の…女の子が登場。
私のステップに合わせて距離を縮めてきた。

ある意味、これもドラマティックか…。

一緒に右に左に体を揺らせているうちに、なんだか楽しい気分になってきた。
そして、その彼女が私の手を取り、片手を私の腰に回してきた。

ゲイナイトだもんな。

彼女もわたしと同様、出会いを求めにここへやって来たのだ。
ただし、私は男性を探し、彼女は女性を探していた。
基本的に彼女と私はマッチしていない。
しかし、私が方向性を変えれば、万事丸く収まる…。
郷に入っては郷に従えってことで、間違ってゲイナイトに来たのはこっちの方だもんね。

体をくっつけ合って踊っているうちに、だんだん妙な気分になってきちゃって。
ラテンの国だもん、これはこれでありかもね…なんて思い始めてきた。

そう、私は南国の大空を飛ぶ七色の極楽鳥。
LOVE、PEACE、FREEDOM!なのだ。

こういう時、私はとてつもない柔軟性を発揮する。
流れに乗らないと、すごく損したような気になるのだ。

「アナタハ、トテモ、セクシー」

彼女が私の耳元で囁いた。

あくる日、私達ふたりはデートをすることになった。
女の子と初めてのデート。
新境地の開拓。

「ユウミ、アナタノユビ、トテモ、キレイ」

「ユウミ、アナタノスマイル、トテモ、カワイイ」

「ユウミ、ユウミ…」

英語があまり話せないラウラは、単純な英単語で私を褒めちぎる。

「ワタシ、31サイ。アナタ?」

ゴマかして

「いくつだと思う?」

「ウーン…25サイ?」

25歳!!!!!?いくらアジア人が外国で若く見えるからって。
40超えてんのに…。あまりのポジティブな誤差に大笑いしてると

「モット、ワカイ?23?」

「ううん、28」

ラウラにとってワタシは、年下のカワイイカワイイ女の子。
ここは相手の夢を壊さぬようにと、大きく大きくサバを読んだ。

幸せそうな笑顔のラウラ。私の手を片時も離さない。

「ニホンヘ、カエラナイデ」

夕方のイパネマビーチで、ラウラが私を愛おしむように抱きしめた。

「キス、シテモイイ?」

ラウラの顔から笑顔が消えた。

「 OK 」

新境地の開拓。
何事も勉強。

さざ波の音が心地よく響くなか、ラウラの両手が私の頬をそっと包み込んだ。
そして、ゆっくりとラウラのマシュマロのような唇が、私の唇に優しく優しく触れた。

ふと、映画 "レインマン" で、ダスティン・ホフマンが女性からキスの仕方を教わるシーンを思い出した。美味しいものを味わうみたいにするの。確か、そんなセリフがあったような気がする。

ソフトで情熱的なラウラのキス。

悪くない。
悪くない。が、何かが違った。

リオを旅立つ日、ラウラのインスタに私とラウラのツーショット写真が投稿されていた。
ポルトガル語で書かれたコメントを訳してみると

あなたの隣を歩いていると、雲の上にいるような夢心地
愛しいユウミ

「ヤダー!愛しいユウミ、愛しいマリア。ラウラって軽いオンナじゃん!」

セレ子がチャットで叫ぶ。

イヤ、軽いんじゃない。
毎回、誰かに本気で熱くなっちゃうのだ。
私には、よくわかる。
私にも、ラテンの血が流れているから。

私とのツーショット写真はとっくに削除され、そこにはもうなかった。

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